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© 2016 by KAJIURA ARCHITECT & ASSOCIATES.

 山形県遊佐町では2007 年に「町民自らが元気の出るまちづくりに積極的に参画し、町と協働し、町民主役による自治を実現する」ことを目的として、「遊佐町まちづくり基本条例」が制定された。

 

それに伴い、1960 年に建設された稲川地区公民館は2011 年に稲川まちづくりセンターとして位置付けられたが、施設の物理的・社会的劣化に伴い改築することが決定した。

この条例設定と改築計画において町民主役による自治の実現を行うため、改築にあたり地区住民から構成される改築検討委員会と町、地域の大学が連携し、住民参加型ワークショップが数回にわたり重ねられ、設計者選定のための公募型プロポーザル要項が作成された。 

稲川まちづくりセンター外観

旧施設跡地より新しいまちづくりセンターを見る。地区住民にとって親しみやすい立地で、遊佐町を代表する美しい景観が拡がる絶好のロケーション。

東に佇む鳥海山のゆったりとした稜線と、西に拡がる砂防林の水平性に調和する屋根のラインとしている。

設計のコンセプト

 稲川地区は人口2000 人程度のとても小規模な地域であり、住民同士のつながりは密になりやすい反面、新たな風を吹き込む発見や出会いが乏しくなりがちな傾向も否めない状況にある。

 

そのため、我々は「地区住民の自慢である鳥海山の絶景とセットになることでシンボル性を獲得できる建物」、「鳥海山の借景を取り込んだ大空間を各室が取り囲み、お互いに気配を感じやすく、発見や出会いが生じやすい開かれた場」となることをコンセプトとした。 

上空から稲川まちづくりセンターと鳥海山をながめる

「土間アリーナ広場」の中心と鳥海山の頂上を結び、山を望みながら集えるように建物配置を決定している。

隣接する鳥海パノラマパークとの一体的利用も図りやすくしている。

土間アリーナから鳥海山をながめる

多くの住民が「我が家の窓から見える鳥海山が一番美しい」と自負するほどに愛着深い御神体。

200 人以上が集える中心的空間「土間アリーナ広場」は雄大な鳥海山を望みながら様々な住民活動が行える気持ちが良い大空間としている。

コンセプトの具現化

ワークショップや住民との対話を繰り返す中で、鳥海山が住民に与える安心感はこの地区で⾧年培われてきた稲作を中心とし

た営みの根底にあることが、人々の言葉の端々に感じることができた。

 

敷地は鳥海山の絶景を見渡すことのできる鳥海パノラマパークに隣接している。この雄大な姿を室内空間に大胆に取り込むため、高さ8.5m、幅11m の大きなガラス開口を設けた。

サッシ面が鳥海山と正対するよう建物配置を決定し、庄内地方で一番美しい鳥海山を望める場となれるよう、サッシの割付や

見付寸法を耐風圧強度とのバランスの中で何度も入念な検討を重ねて決定した。この鳥海山の借景を取り込む大空間を「土間アリーナ広場」と名付けて中心に据え、その周りを各室が多少揺らぎながら馬蹄形に取り囲むプランとした。

 

各室はこの「土間アリーナ広場」との一体的利用も可能となる柔軟な空間とし、各室の揺らいだ角度が空間の余白や視線のずれ、見え隠れを生じさせ大空間ながらも不思議と落ち着いて寛げる場を形成している。

「土間アリーナ広場」を中心とした空間構成は、住民による料理教室や発表会イベント、お祭りイベントなど既存のアクティビティに対し気配を感じやすくよりスムーズに運用することのみに限らず、フレキシビリティーの高い空間構成により将来の多様なアクティビティの可能性を空間の側から触発することに成功している。

メインアプローチ側より鳥海山を背後に抱く

まちづくりセンターを見る

山の稜線と呼応する屋根形状としている。

鳥海パノラマパーク側よりまちづくりセンターを見る

カーテンウォールに鳥海山が美しく映えるようにブルーのLow-E ガラスとしている。

建築的挑戦

遊佐町は、山形でも水が澄んでいて良質な米や野菜の農作物を生産している地域である。

 

しかしながら、その恵まれた資源の一方で、月光川周辺の軟弱な地盤、冬季の西北西からの地吹雪や夏季に東南東から吹く季節風等の厳しい自然環境にも耐えうる建築が求められた。

 

我々は軟弱な地盤と施設規模のバランンスを考慮し「浮き基礎」を採用し、杭を用いないで掘削土重量同等の建築を計画すればその地で安定し続けるとういう方針で地盤にかかる費用を低減した。

 

軽量化のため鉄骨造平屋とし、耐震性を併せ持ちながらもフレキシビリティーの高い空間とすべく、軽快で合理的な鉄骨架構に合成スラブやスラブプレート、座屈拘束ブレース等を適所に組み合わせ、安全性と機能性、経済性に応えている。

 

「土間アリーナ広場」上部の屋根は、ランダムに配置された周辺各室の上部を支点としている。

 

複雑な支点位置に順応しやすく、構造的にも安定しやすい三角形のフレームを連結し馬蹄形に展開させ、全体で四角形のフレームを持ち上げる構成としている。

 

複雑な支点位置に対し直線材のみで大架構とすることでコスト面、制作面でも有利な大屋根を実現している。

 

また、様々な角度から建築と風景を見た際に鳥海山をリスペクトし建築が佇むように山の稜線と呼応するデザインとし、かつ地吹雪方向の風の影響を受けにくい形状としている。

屋根の構造について

地区住民の多様な活動に応えるべく軽快で柔軟性の高い空間実現のため、また軟弱地盤に対しては建設コスト低減のため杭を使用しない浮基礎を実現すべく軽量な鉄骨造とした。

アプローチ1

気軽に立ち寄り易いように、全面ガラス張りの開放的なサロンスペースを配置している。

土間アリーナ広場

水田が拡がる稲川地区の豊作を願い土間アリーナ広場の床材を稲穂の黄金色としている。大勢の人が集う空間直上の天井高を8M でゆったりとした気積とし、天井材は浮遊感のある軽快な吸音化粧GW ボード貼としている。

土間アリーナ広場

講義室

和室

調理室

サロン

調理室カウンター

土間アリーナ使用例

土間アリーナ使用例

完成後の動き

「稲川まちづくりセンター」の完成により、地区住民のまちづくりに対する関わり方は、少しずつ変化を見せている。

 

既存のサークルや団体が引き続きその活動を継続することはもちろん、この施設の完成により新たな活動グループが生まれ始めてる。

また、放課後には「土間アリーナ広場」の一部にセミオープンに設けた子どもコーナーを基地とし、施設内で遊ぶ子ども達が、ふと立ち寄った地域の年配者と交流をする姿も日常の一部となってきている。

 

これは、計画時に想定していた「住民が気軽に集える場」として異世代間交流も自然と促進されているといえる。

地区住民主体のワークショップはプロポーザル要項策定時から行われ、我々が設計者に選定された後も設計段階で継続して行っている。

 

工事段階でも新たなまちづくり計画策定に向けたワークショップを行い、さらに竣工後も具体的な運営・活用段階としてスパイラル的に行っている。

 

ハード面のみならずソフト面においても我々設計者がワークショップにスパイラル的に継続し関わっており、当初の住民の要望と、それを受けた設計者の提言で実現した空間を、住民が思う存分利用し心豊かな暮らしがより実感できるように連携し取り組んでいる。

稲川まちづくりセンター 建築詳細情報

[建物名称] 稲川まちづくりセンター

[発注者]  遊佐町長 時田博機

[用 途]  集会場(まちづくりセンター)

[所在地]  山形県飽海郡遊佐町増穂字大坪25-2

[設計・監理]

 建 築 :梶浦暁建築設計事務所 + 三四五建築研究所

 構 造 :アラップ

 電機設備:ルナ設備設計事務所

 機械設備:テーテンス事務所

[施 工] 

 建 築 :土門建設㈱

 電 機 :東北電機鉄工㈱

 機 械 :環清工業㈱

[規 模]

 構 造 :鉄骨造

 階 数 :地上1 階

 敷地面積:3,445.86 ㎡

 延床面積:681.49 ㎡

[設計期間] 2013 年6 月~ 2014 年3 月

[施工期間] 2014 年7 月~ 2015 年12 月

[主な外部仕上]

 屋 根 :ステンレス防水、シート防水

 外 壁 :チタン強化亜鉛合金板立平葺、レッドシダー張

[主な内部仕上]

 床   :合金骨材配合強靭床材

 壁   :クロス下地塗装

 天 井 :吸音化粧GW ボード厚手ガラスクロス額縁貼