認定こども園の設計について 〜 東松認定こども園げんき
2015年の春に竣工し、新たな認定こども園としてスタートしました「東松認定こども園げんき」。この認定こども園の設計に携わることになった流れや、具体的な設計のプロセスなどを弊社代表の梶浦暁に聞きました。(編集スタッフ。以下は梶浦暁建築設計事務所 代表 梶浦暁の言葉による「想い」を文章にしたものです。)
この「東松認定こども園げんき」は1975年の設立以来、幼稚園として地域に根差してきたのですが、2014年度私立幼稚園認定こども園移行耐震化促進事業を受け、幼稚園型認定こども園として建替計画がスタートし、指名型プロポーザル方式により計画の選定が行われたものです。
それらの指名型プロポーザルを受け、われわれタニグチアトリエと梶浦暁建築設計事務所が選定されました。
子育てサロンより見たホール
東松認定こども園げんきの設計プロセス
この幼稚園の敷地は関越自動車道脇に位置し、戸建住宅に囲まれた静かな住宅街です。近くには田畑や川、山もあり自然環境に恵まれたのどかな地域で、周辺にお住いの住民の方々との信頼関係も厚く、建替計画の前からその信頼関係に根ざした、地域に対して開放的な園です。
この幼稚園の建替計画のプロポーザルに参加するにあたり、我々は幼稚園の園舎や園庭のリソース、求められる規模、園の教育方針、培ってきた地域との綱がりなど、目に見えるものと見えないもの、両方を細やかにリサーチしていきました。
そこでとても印象に残ったのが、この地において素足や草履で駆け回る天真爛漫な園児の姿と,生きる力を育てる保育を続けたいと言う園長の言葉です。
この幼稚園では、その言葉通りに、子供達が素足や草履で駆け回っており、園舎の内側も外側もすみずみまでが子供達のための学び場所である、ということを改めて学ばさせていただくこととなりました。
そこで、このような園の方針や、その方針を見守り育んでいらっしゃる保護者の方や周辺の住民のみなさんの関係性を教育の場にスムーズに活かせるよう、新しい園舎ではこれらの要素を無理なく調和させ促すような設計を心がけました。
そのような考えから、新しい園舎は、いわゆる「温室」のように過度に子供達を保護するものでなく、彼らの感性をより豊かにし、彼らを取り巻く自然の恵みをいっぱいに享受するための保育空間の創造が必要不可欠であると考えるに至ったのです。
ホールと職員室、預かり保育室、うんどうの庭に囲まれた
「ひだまりの庭」
園庭に向け、軽快に広がり、
木漏れ日のような光がそそぐ「えんがわ」
東松認定こども園げんきの具体的なプランニング
まず、園舎は敷地南東に配した園庭を囲むようにL字型に配置しました。こどもたちの集まるホールを中央に据え、活動量の多い3~5歳児のための部屋と、落ち着きのある預かり保育のための部屋を分けています。そこに性質の異なる5つの庭を挿入した形になります。
具体的には、「うんどうの庭」、「ひだまりの庭」、「けんきゅうの庭」、「ひかりの庭」、「かぜの庭」の5つです。
これらの庭は自然を取り込むための装置であり、保育特性を生かす場として機能するように設計されています。
活発に動き回る3~5歳児の保育室群は、「うんどうの庭」に直接面した配置となっています。また、壁で仕切らず空間的に連続した内部空間は、園児たちが互いの居場所確認をしやすいよう、切妻二段勾配とフラット面の天井をおりまぜ、変化をもたらしています。また各保育室間に挿入した「アトリエ」「ライブラリー」は、園児たちの道具箱としての機能だけでなく、園児たちの異年齢交流の場としても機能する空間となっています。
一方、北側奥に広がる預かり保育室(幼保連携型へ移行の際は0~2歳児用の保育室)は、ひだまりの庭を介した落ち着いた配置にしています。この部屋には直接水回り空間が隣接しており、低く抑えた仕切りによって目の行き届く保育を可能にしながら,園児の目線での落ち着きを保っています。
またこの部屋は管理部門である職員室にも近く、空間的にもよりコンパクトな空間内での長時間保育が可能であり、時間的な機能(午前中は保育室中心、午後は預かり保育などが中心)に合わせて建物を効率よく利用することを可能にしています。
さらに園を特徴付ける要素が「えんがわ」です。園庭と保育室の間に走る「えんがわ」は、木デッキと木ルーバーをまとった庇で構成され、園舎全体を繋いでいます。庇にはあえて木ルーバーを用いたことで、まるで木々の間から降り注ぐ木漏れ日のような柔らかな光を落とすことができ、この「えんがわ」を介して各部屋が園庭に向けて軽快に広がっていきます。
この「えんがわ」の空間は、建物の内外の環境を交錯させ、建物の外部と内部の境界を曖昧にする「ゆらぎ」の空間であり、この東松こども園げんきの培ってきた「園児たちの生きる力」を育むまさに「生命線的領域」ということができるでしょう。
アトリエ、ライブラリーを挟みながら連続する「保育室」
連なる切妻屋根の保育室群を「えんがわ」が繋ぐ。
分節された園舎は周囲の住宅街に寄り添うスケール。
東松認定こども園げんき 建築詳細情報
所在地 埼玉県東松山市石橋1761
主要用途 認定こども園
建主 学校法人吉田学園
設計──────────────────
建築・監理 谷口麻里子/タニグチアトリエ
梶浦暁/梶浦暁建築設計事務所
担当/谷口麻里子 梶浦暁 柳文相 眞榮城雅子
構造 長坂設計工舎
担当/長坂健太郎
空調・衛生 テーテンス事務所
担当/坂井郁恵
電気 ルナ設備設計事務所
担当/岡田一宣
計画アドバイザー 佐藤将之/早稲田大学人間科学学術院
施工──────────────────
建築 三光建設
担当/高橋昭夫 黒田龍紀
空調・衛生 木村設備工業
電気 関根電気商会
太陽光発電 番匠
規模──────────────────
敷地面積 1,178.20m2(計画部分)
建築面積 596.53m2
延床面積 591.46m2
1階 568.16m2 / 2階 23.30m2
建蔽率 50.63%(許容:60%)
容積率 50.20%(許容:200%)
階数 地上2階
寸法──────────────────
最高高 6,750mm
軒高 5,250mm
階高 職員室:2,950mm
天井高 ホール:3,920mm
保育室(かくへや・つくるへや・ままごとのへや):3,180mm
アトリエ・ライブラリー:2,100mm
主なスパン 6,750mm~7,735mm
敷地条件────────────────
地域地区 市街化調整区域
道路幅員 東4.0m 西5.4m 北4.0m
構造─────────────────
主体構造 木造
杭・基礎 ベタ基礎
設備─────────────────
環境配慮技術
太陽光発電
空調設備
空調方式 空冷ヒートポンプ方式
熱源 電気
衛生設備
給水 上水道直結給水方式
給湯 ガス給湯方式
排水 合併処理浄化槽
電気設備
受電方式 低圧受電方式
防災設備
消火 消火器
排煙 自然排煙
その他 自動火災報知設備(消防通報装置含む) 誘導灯 非常用照明
工程──────────────────
設計期間 2014年3月~7月
施工期間 2014年9月~2015年3月
外部仕上げ───────────────
屋根 カラーガルバリウム鋼板立平葺き
外壁 カラーガルバリウム鋼板立平葺き
レッドシダー本実貼 t=18mm
開口部 木製サッシ アルミサッシ(LIXIL)
庇 ポリカーボネート小波板
外構 レッドシダー t=18mm
内部仕上げ───────────────
ホール
床 吉野杉無垢フローリング t=30mm(番匠) 蜜蝋ワックス塗壁 PB t=12.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
天井 PB t=9.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
保育室(かくへや・つくるへや・ままごとのへや・預かり)
床 カバザクラ無垢フローリング(スズキ)t=15mm 工場塗装品
壁 PB t=12.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
天井 PB t=9.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
アトリエ・ライブラリー
床 カバザクラ無垢フローリング(スズキ)
t=15mm 工場塗装品
壁 PB t=12.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
天井 PB t=9.5mm エコフレッシュクリーン(エスケー化研)
トイレ・洗面室
床 長尺ビニルシート オデオン t=2mm(サンゲツ)
壁 PB t=12.5mm けいそうモダンコート(四国化成)
天井 PB t=9.5mm けいそうモダンコート(四国化成)
主な使用機器──────────────
衛生機器 TOTO
照明器具 東芝ライテック
空調機器 東芝キャリア